LOGIN範経は職員室に入り、川田孝子に二人で話をしたいと言った。
「いいわよ。十分後に音楽準備室に来て」と孝子はうれしそうに返事をした。
範経は由紀と祥子に引きずられるようにして準備室に入った。
孝子が「お友達を連れて来たのね」と言った。
「川田先生、お話があります」と由紀。
「何かしら?」と言いながら、孝子は由紀たちに近づいた。
「しらばっくれないでください!」と由紀。
孝子は少し驚いた顔をした。「範経君、こちらにきて」と言いながら、まるで子犬をあやすように手元に引き寄せ、黒縁の眼鏡をはずして範経の目の奥を覗き込んだ。
「あら、範経君、大変だったようね。昨日から二回も女の子に押し倒されるなんて」と言って、孝子はふふふと笑った。「それで、話って何かしら?」
「範経を放して!」と由紀。「なんで範経を抱きつくのよ!」
「見てなかったの? 範経君が私の胸に寄りかかってきたのよ」と孝子。「あら怖いわ。範経君、行きなさい」と言って範経の背中を由紀の方へ軽く押した。
由紀が強く範経の手首をつかんで孝子を睨んだ。
「川田先生、なぜ昨日、範経とキスしたんですか?」と祥子。
「見てたの?」と孝子。
「ブラスバンド部で噂になっています」と祥子。
「盗み見した人がいたのね」と孝子。
「ごまかさないでください!」と由紀。
「私、わかるのよ」と孝子。
「何をですか?」と祥子。
「キスをすると、相手が考えていることが分かるのよ」と孝子。
「ふざけないでください!」と由紀。「許さないわ……」
「冗談よ。範経君に忠告してあげたの」と孝子。
「何の忠告ですか?」と祥子。
「範経君が校内で盗撮していると職員室で噂になってるのよ」と孝子。
「え!」と由紀。
「どういうことなのか、話してください」と祥子。
「いいわよ。でもその前に範経君の手首を放してあげたら。痛そうよ」と孝子。
由紀がはっという顔をして手を放し、祥子が弘樹を抱きかかえた。
「いつもそうしてあげるといいわよ」と孝子。
「それで先生は範経に確認したの?」と祥子。
「そうよ。疑っているわけではないけれど」と孝子。
「範経が盗撮なんて、するわけないじゃないですか」と祥子。
「インターネットの闇サイトで、うちの高校で撮られた写真が売られているらしいわ」と孝子。
「だからって、なぜ範経が犯人だなんてことになるんですか!」と由紀。
「最近、範経君がカメラを校内で持ち歩いていたって聞いたけど」と孝子。
「それは文化祭のクラスの出し物が劇だから、練習中の映像をとって演技をチェックするためです」と祥子。「私たちが頼んで持ってきてもらったんです」
「だけど、高校生が持ち歩くようなカメラじゃないんでしょ?」と孝子。
「範経の父親のものです」と由紀。
「しかも光学迷彩機能付きのドローンにのせて飛ばしていたって」と孝子。
「だからって、何なんですか!」と由紀。「舞台の邪魔にならないからいいだろうって、範経がわざわざ光学迷彩機能のある機種を持ってきてくれたんです」
「そんなもの、持ってこさせちゃだめよ」と孝子。「ただでさえ、範経君は教員からもよく思われていないんだから」
「だからって盗撮を疑うなんてひどいじゃないですか!」と由紀。
「そうかしら。私だって心配だから確認したのよ」と孝子。
「ただの小型ドローンですよ」と由紀。
「あれを同時に二機飛ばして、演劇を映画みたいに音声付きで撮影するのってすごい技術よ。知らないの?」と孝子。
「先生も疑っているんですか?」と祥子。
「確認しただけよ」と孝子。「それに他の先生にも、ちゃんと説明したいから」
「他の先生なんて関係ないわよ!」と由紀。
「範経君を特別扱いしていることを、よく思わない先生がいるのよ」と孝子。
「範経は特別扱いなんてされてません」と由紀。
「頻繁に学校を休んでるでしょ。それに遅刻したり早退したり」と孝子。
「他にも休んでいる生徒はいます」と由紀。
「それはいじめとか引きこもりが原因の生徒のことでしょ」と孝子。「気分屋の範経君はそういうのじゃないから」
「出席日数をちゃんと計算しています」と祥子。
「そういう所が嫌われているのよ」と孝子。「ご両親からの強い希望であなた達三人を同じクラスにしてるのも問題よ」
「誰にも迷惑をかけてません!」と由紀。
「そうかしら。唐崎さんと椿さんには別々のクラスでリーダーシップを発揮してほしいと考えている先生は多いわ」と孝子。「私もその意見に賛成よ」
「その話は盗撮とは関係ありません」と祥子。
「なぜ先生は範経とキスしたんですか!」と由紀。
「それは……」と孝子が言葉に詰まり、代わりに範経が言った。「先生は、ぼくが何か違法な薬物を飲んでいないかどうかを確かめたんだ」
「気がついていたのね」と孝子は
「どういうこと?」と祥子。
「範経君の唾液をもらったの」と孝子。「検査するための。本当は血液が欲しかったのだけど」
「唾液が欲しいなら、そう言えばいいじゃない!」と由紀。「キスなんて必要ないわよ!」
「いやよ。範経君に検査をするから唾を出して、なんて言えないわよ」と孝子。「私が嫌われてしまうわ」
「検査の結果はどうだったんですか?」と祥子。
「もちろん何も出なかったわ」と孝子。
「他に何かされたの?」と由紀は範経をにらんだ。
「特に何もないよ。それとなく肌に注射の跡がないか見られてたけど」と範経。
「それも気がついてたのね。さすがだわ」と孝子。「ついでにいろいろ触っちゃった」
「何でそんなことを疑うんですか?」と祥子は範経を両手で強く抱きながら言った。
「あなた達だって気がついてるのでしょ。範経君が普通じゃないって」と孝子。
「もう範経に近づかないでください」と祥子。
「仕方ないわね」と孝子。「範経君、こっちを向いて」
範経は祥子から離れて体を孝子に向けた。
「範経君、疑って悪かったけど、あなたのことが心配だったの。誤解しないでね」と孝子。「あなたのことが好きなのは本当よ」
範経はかすかにうなずいた。それを見ていた由紀が範経のほほを思い切りひっぱたき、範経が倒れた。
「もう二度と範経に近づかないで!」と由紀が叫んだ。
読んでくださりありがとうございます。「よかった」とか「面白い」 のような一言でもよいので、コメントを残していただけると幸いです。 今後の創作活動でフィードバックさせていただきます。
ある初夏の夕方、アルゴー社で定例の役員会議があった。「またお客さんが来るの?」と範経。「言っておいただろう。ネオジェネ社の創業者のロバート・アンダーソンさんと家族だ。お前、一度会ってるだろう」と幸一。「かろうじて覚えてるよ。シャーロットの父親でしょ?」と範経。「そうだ、あのおてんば娘も一緒に来るそうだ」と幸一。「範経はまた追い回されるのね」と美登里。「息子のトムも来るそうだ。お前にぞっこんらしいぞ」と幸一。「いやだわ」と美登里。「断れないの?」と範経。「ロバートはお前に会いたいらしいんだ」と幸一。「何で?」と範経。「会って聞け」と幸一。「シャーロットも範経に会いたがってるでしょうね」と涼子。「何でぼくなんだよ」と範経。「チェスで負かされたからでしょ」と美登里。「負けず嫌いだものね、あの娘」と涼子。「何で負けてやらなかったんだ。お前らしくない」と幸一。「疲れてたんだよ。接待将棋なんて気分じゃなかったから、最短の手で勝って終わらせたんだ」と範経。「怒らせたお前が悪い。今回も遊んであげるんだな」と幸一。 次の日の午後、アンダーソン氏がアルゴー社を訪問した。「ロバートを連れて来たよ」と言いながら幸一が会議室に入った。 範経が椅子から立ち上がった。「お久しぶりです、ロバートさん」「社長に就任、おめでとう、範経君」とロバートは範経と握手をしながら言った。「ありがとうございます」と範経。「今後ともよろしく。活躍を期待しているよ」とロバート。「ぼくはお飾りですよ」と範経。「そんなはずはないだろう。アルゴー社の製品は君が開発したものばかりなのに」とロバート。「お父さん!」と言って範経は幸一をにらんだ。「守秘義務を忘れたんですか、会長?」と美登里は幸一に冷ややかな目を向けた。「おいおい、オレは何も言ってないよ」と幸一。「まあまあ落ち着いて。私はだれからも聞いてない。ただの推論だ」とロバート。「その推論を聞かせてくれ」と幸一。「かまわんよ。簡単なことだ。君たちが拙宅に滞在したときに気が付いたんだ。娘がチェスで負かされたときにね」とロバート。「あれはイカサマですよ。わが社の電脳を使ったんです」と範経。「シャーロットもだよ。私が作って、あの子のために調整した人工知能だ。もちろん市販の人工知能よりずっと性能がよいものだ。
由紀と祥子が主役を務める「ロミオとジュリエット」は大盛況だった。劇が終わって範経たちは体育館を出た。「範経! やっぱりいた。一番前の席にいたから、探しに来たのよ!」と由紀。「由紀ちゃん! 祥子ちゃん!」と範経。「もう逃がさないわ。今までどこに行っていたのよ!」と由紀が範経を抱きかかえた。「ちょっと、こんなところで……」と範経が体をねじって抵抗した。「私が先よ」と由紀。「しかたない。私は次でいいわ」と祥子。「観念するのよ、範経」と言って由紀は範経に顔を近づけた。「なんで、いきなりこんな……」と範経。「今度会ったら絶対キスするって決めてたの」と由紀。「もう離さないから」「みんな見てる……」と範経。「抵抗したら、もっといやらしいことしちゃうわよ」と由紀。「なんでそんな……」と範経。「高校をやめようとしたでしょ」と由紀。「それは……」と範経。「私たちのこと、どうするつもりなの?」と祥子が後ろから耳元でささやいた。「ごめん」と範経。「彼女じゃなくて、公認の愛人にしてもらうわ」と由紀。 由紀は範経の口をキスでふさいだ。 祥子が後ろから、他の人から見えないように範経の股間を手で探った。「範経のアレ、硬くなってるよ」と祥子がささやきながらアレをさすった。 由紀のキスの後、祥子が範経を自分の正面に向け、両腕で強く抱きかかえてキスをした。「ねえ範経、私たちのこと、ちゃんと考えてくれる?」と由紀が後ろからささやきながら、範経のズボンのポケットに手を入れてアレをにぎった。 一緒にいた美登里やケイトたちも含めて範経の周りに人垣ができた。美登里は範経たちのキスシーンが終わるのを待ってから言った。「この二人が由紀と祥子よ。由紀、祥子、こちらがケイトとメアリー。今、うちの家に泊まってもらっているの。さっきあなたたちの劇を見せてもらったわ」「初めまして。由紀さんがジュリエットで祥子さんがロミオだったのね。ロミオ役が女の子だったなんて、ちょっと驚いたわ」とケイト。「どちらが範経さんのガールフレンドなの?」とメアリー。「両方よ。見ての通り」と美登里。「さすが範経さんね。無理やり人前でキスされる男の子なんて初めて見たわ」とケイト。「しかも二人の美少女になんて」とメアリー。「ケイトさん、メアリーさん、私たちが文化祭を案内するわ」と言って由紀が歩
美登里はケイトとメアリーを鶴峰高校の文化祭へ連れて行った。範経と涼子が同行した。「どこにに行くの?」と範経。「校長室よ。先生方に呼ばれているの」と美登里。「高校に来るのは久しぶりだわ。変わらないわね」と涼子。「行きたくないよ、ぼくは由紀ちゃんと祥子ちゃんに会いに行くよ」と範経。「だめよ、あなたも来なさい。先生方にケイトとメアリーを紹介するのよ」と美登里。「そんな必要ないだろ。文化祭に遊びに来ただけなのに」と範経。「校長が是非にっていうのよ。それに短期留学でお世話になるかもしれないでしょ」と美登里。「まじでこんな高校に留学するのか。ありえないだろ。ここの教員どもはろくでもないよ」と範経。「範経、黙りなさい。ケイト、メアリー、ここが校長室よ」と美登里は言ってドアをノックした。「塚原です」「どうぞ、入ってください」と中から声がした。 美登里たちは校長室に入った。部屋には三人の教員がおり、そのうち二人は応接セットの椅子に座っていた。美登里はケイトとメアリーを紹介した。「校長先生、こちらがケイト・ヘルマンさんとメアリー・ヘルマンさんです」「ようこそ、おいでくださいました。校長の山本と申します。こちらが教頭の内田です」と校長の山本が自己紹介した。「こちらこそ、よろしくお願いします」とケイトとメアリーが山本らと目を合わせた。「前川涼子さんも久しぶりです。みなさんこちらに座ってください」と山本。 美登里とケイトとメアリーが山本と内田に向き合う長椅子に座った。「範経もこちらに来なさい」と美登里。「ぼくはいいよ。椅子が足りないし」と範経。「すぐ椅子を持ってこさせます」と山本。 雑用係の若い教員が二脚のパイプ椅子を長椅子の横に広げた。「立ったままで結構です。用件だけ聞いたら帰りますから」と範経。「範経、こちらに座りなさい。そのパイプ椅子には私が座ります」と美登里が立ち上がって、長椅子の席を譲った。「わが校に来てくださって大変光栄です。今はどちらにご滞在なのですか?」と山本。「塚原家のお宅にホームステイをしています。父が範経さんの会社とお付き合いがある縁でお願いしたのです」とケイト。「塚原家の子弟の方々はわが校の誇りです。在学中の美登里さんは常に成績は首位ですし、従姉で卒業生の涼子さんも同様でした。範経君には少し問題がありますが、責任を持
由紀は美登里に電話をかけた。「範経が社長になったと聞いたのですが」「ええ、そうなの。だからしばらくは忙しくて高校に出られないわ」と美登里。「先日、電話で範経が高校を辞めるって言ってたのですが……」と由紀。「やれやれ。そんな事はさせないわ」と美登里。「本当ですか?」と由紀。「約束するわ。落ち着いたら、また高校に連れていくから」と美登里。「範経は無理してないですか?」と由紀。「少し疲れてるわ。投資家の接待のような慣れない仕事が多いから」と美登里。「かわいそうな範経」と由紀。「また可愛がってあげてね」と美登里。「はい」と由紀。「ところで頼みがあるのだけど」と美登里。「何でしょうか?」と由紀。「うちにお客さんが来ているの。仕事でお付き合いのある方の娘さんで、日本の高校を見たいと言っているの。鶴峰高校の文化祭に連れていくから、一緒に案内してもらえないかしら」と美登里。「もちろん、喜んで。私たち、劇をやるのでぜひ見に来てください」と由紀。「演目は何?」と美登里。「ロミオとジュリエットです」と由紀。「随分べたね。分かったわ。範経も連れていくからよろしく頼むわ」と美登里。「ええ、お待ちしています」と由紀。
帰宅した範経はリビングルームのソファーでくつろいでいた。「範経、こっちに来なさい」と美登里。「何、姉さん」と範経。「キスして」と美登里。「え、ここで?」と範経。「そうよ、毎日するっていう約束でしょ」と美登里。「だけど、だれか来るかも……」と範経。「かまわないから、早く」と美登里。「ちょっと……」と範経。「力を抜いて」と美登里。「待って……」と範経。「そうよ、いい子……」と美登里。「……ぼく疲れてるんだ。お客さんと外食なんて好きじゃないよ」と範経。「分かってるわ」と美登里。「もう眠い……」と範経。「横になりなさい。膝枕してあげるから」と美登里。「うん」と範経。「ここで休みなさい」と美登里。 範経が眠った。美登里は範経を抱きかかえて立ち上がった。「圭、明、今日は範経を私の部屋で寝かせるわ。」「どうぞ」と圭。「好きになさって。お姉様」と明。「範経さんをお嬢様抱っこして連れて行ったわ。美登里って力持ちね」とケイト。「圭、明、いいの?範経さんをお姉さんの部屋で寝かせて?」とメアリー。「ええ、構わないわ。兄が幸せなら」と圭。「優しいのね」とケイト。「兄の心配がないなら、私たちも寝るわ」と明。「ケイト、メアリー、おやすみなさい」と圭。「おやすみなさい」とケイトとメアリー。
「圭、明、あなたたちが妹になってくれるって聞いてとても楽しみにしていたの。少し残念だわ」とケイト。「私たちは兄から離れられないわ。お兄様は私たちのすべてだから」と圭。「そのようね」とケイト。「それに、一日でも私たちがいなければ、ハイエナのように姉たちが兄さんを奪っていくわ」と明。「あなたたちって本当に範経さんのことが好きなのね」とメアリー。「ところで、範経さんは圭と明の兄ということは、高校生ですか?」とケイト。「ええ、一応は。社長になってからは時間がないので退学するつもりなのですが、退学届けを出す時間すらないのです」と範経。「ひょっとして私と同い年かしら」とケイト。「どうでしょう。私は十六歳で高校二年生ですが」と範経。「同い年だわ。もっと年下に見えていたけど」とケイト。「実は私、日本への留学を考えていて、今回の旅行は留学の下見を兼ねているのです。美登里さんと範経さんの通っている高校を案内してもらえないでしょうか」「それはいい考えよ。私たちが案内してあげるわ」と美登里。「今言ったようにぼくは高校を辞めるつもりで……」と範経。「何いってるのよ」と美登里。「ぼくはもう退学届の書類を書いたし……」と範経。「保護者のハンコを押したの?」と美登里。「いや。まだだけど、お母さんに……」と範経。「あなたの保護者は私よ。知らなかったの?」と美登里。「え?」と範経。「お母さんが忙しいから、あなたのことは私に任されているの。勝手はさせないわ」と美登里。「そんな無茶な」と範経。「ちゃんと高校に通いなさい」と美登里。「忙しいよ」と範経。「だめよ、落ち着いたら、毎日私が連れて行くから」と美登里。「ケイト、私たちが案内するわ」「ぜひお願いします」とケイト。「私も連れてって欲しいわ」とメアリー。「もちろんよ。来週、高校の文化祭があるの。一緒にいきましょう」と美登里。「うれしいわ!」とケイトとメアリー。「よかったらうちに泊まっていってもいいわよ」と美登里。「本当に?」とケイトとメアリー。「美登里姉さん、名家のご令嬢に泊まっていただけるような家じゃないよ」と範経。「構わないわ。だって日本でホームステイしたいと思っていたから」とケイト「お父さん、お母さん、いいでしょ?」「もちろんだ。範経さん、いいのですか?」とジョン。